なぜいま産地とスーパーをつなぐのか 〜 みらいマルシェが実現したいこと

生鮮品のオンライン市場「みらいマルシェ」は、サービス開始から一貫して、「産地とスーパーをつなぐ」ということを軸に事業を展開してきました。

野菜や魚などの生鮮品を、スマホアプリを通じて産地の事業者が出品し、スーパーの仕入担当者が注文する。このシンプルなモデルで運営を続け、お陰様で2024年5月現在で累計取引金額は70億円、年間では20億円の商品が流通するプラットフォームに成長を遂げてきました。

実際には、みらいマルシェで仕入れを行っているのはスーパーだけではなく、輸出事業者や、豊洲・大阪といった消費地市場の仲卸、また飲食店の方にもご利用いただいており、以下のような構成比となっています。

みらいマルシェの買い手としての利用者構成(2024年5月時点)

みらいマルシェの買い手としての利用者構成(2024年5月時点)

ですがスーパー以外の利用申込については、「スーパー向けのサービスなので、御社には使いにくい可能性があります」ということを適宜ご案内させていただき、その上でご利用いただくようにしています。

なぜそうまでしてスーパーにこだわっているのか、産地とスーパーをつなぐことにどのような意義を感じているのか、この投稿では、みらいマルシェが事業を通じて実現したいことを、そんな切り口から書いてみたいと思います。

みらいマルシェ立ち上げのきっかけ

みらいマルシェは元々法人として独立していたわけではなく、RELATIONSというコンサルティング会社の社内ベンチャー事業として、2015年に立ち上がりました。

当時RELATIONS社員の私は、今でいうDXを推進するコンサルタントとして複数クライアントの支援をさせていただく傍ら、社内で新規事業を立ち上げるべく、クライアントの了承のもと様々な現場にお供させていただき、事業の種を探す活動をしていました。

そのとき出会った某スーパーの役員の方の言葉が、その後の私の行動を大きく変えることにつながりました。それは次のような主旨でした。

大量生産・大量消費時代の流通の進化、そしてスーパーの進化で、野菜や魚は一定のところまで「たくさん」「効率良く」消費者に届けられるようになった。でも品質はどうか、価格はどうか。

夕方以降の来店客にも商品をいっぱい見せるため、過剰に仕入れて陳列棚を埋め、余って鮮度が落ちたものが翌日まで残る。
チラシに載せた魚をなんとしても陳列しないといけないため、痩せ細った魚でもかき集めて売りに出す。
そうして品質が落ちた商品をなんとか売り切るため、値引きシールや、不要な加工、無駄な販促など、品質とは関係ないところにお金をかけることになり、その費用が商品に乗ってくる。

本来生き物であるはずの生鮮品を、工業製品のように流通させ、たくさん売ろうとしたために、結果的に生鮮品は「高く」「不味く」なっているのではないか。「魚離れ」と言ったりするが、これはスーパーが長年かけて作ってきた負債ではないか。

スーパーの経営者でありながら、これまでのスーパーの負の側面を正面から捉え、変革に取り組んでいる姿に、驚きと尊敬と、そしてこれからの生鮮流通の未来に対する高揚感を抱いたのを今でも覚えています。

その後、そのスーパーの多くの方からたくさんのアイディアやインスピレーションをいただくとともに、「この考え方を、ぜひ他のスーパー、そして未来の流通のために役立つ形で事業展開してください」と、有り難い応援の言葉をいただき、RELATIONS内での事業開発・事業検証がスタートしました。

「毎日の食」を豊かにするインフラでありたい

RELATIONSで事業化するにあたり、社内メンバーの声は様々でした。中には鋭い指摘として以下のようなものもありました。

  • 「どうせやるなら、生産者や漁師と消費者を直接つなぐべきではないか」
  • 「スーパーより飲食店を顧客とする方が動きが早く、展開しやすいのではないか」
  • 「古い商習慣を変えるのは難しいから、全く新しいマーケットをつくっていくべきではないか」

(余談ですがこういうことを言い合えるRELATIONSの風土はとても心地よかったです。)

これらは事業企画の観点からはどれも全く否定の余地がないと思います。この観点で急成長中のスタートアップが実際に存在していることが何よりの証拠です。(魚ポチのフーディソンさんや、食べチョクのビビッドガーデンさん、ポケットマルシェの雨風太陽さんなど。)

ですが、私が一貫して考えていたのは、

どうすれば毎日の食が豊かになるか。そのために必要な仕組みやインフラはどんなものか。

ということでした。非日常を楽しむための食ではなく、日常の食をより良くするにはどうしたらいいか。需給両サイドの毎日の負担を最小限にするにはどうしたらいいか。その仕組みは持続可能か。そういった視点が、事業をつくる上で最も重要な核でした。

そして行き着いたのは、「太くて綺麗な血管を全国に張り巡らす必要がある」という結論です。

消費者や飲食店のような小口ニーズへのマッチングを日常食に適用すると、例えるなら毛細血管を身体中に巡らせるような構造になり、どうしても物流・梱包・問い合わせ対応など、あらゆるところで費用のオーバーヘッドが発生し、生鮮品の流通に必要な社会的コストを底上げしてしまう可能性があります。

一方、既存の太い血管である市場流通は、必ずしも需要のあるところに商品が流れるわけではなく、最終需要がわからないまま慣性だけでより太い方(都市部への流通)に商品を流してしまう構造があり、結果としてフードロスや品質劣化が発生しやすいという課題を抱えています。

需要と供給をきちんとテーブルに並べ、それらを素早くマッチングし、ある程度まとまった量で流通させる仕組みを構築することが、「毎日の食」を豊かにするインフラとして最も重要になるのではないかと考えました。

スーパーを「産地」のように楽しむ未来へ

日常食の担い手であるスーパーは、毎日1000〜3000人以上の来店客に商品を届け、地域の人々の日々の暮らしを支えています。一方で、スーパーが仕入れを行う卸売市場は年々規模が縮小している地域も多く、このままではスーパーに並ぶ生鮮品は質・量ともに低下し、生活者の食卓に直接影響していくという状況に直面しています。

この危機を変化のための好機と捉え、産地とスーパーが直接つながり、消費者が求めるものをダイレクトに取引できるようなれば、まさに「太くて綺麗な血管」が開通します。両者の距離が近づけば近づくほど、スーパーはまるで産地そのもののように機能し、消費者の多様なニーズに応えられるようになります。また、良いスーパーには飲食店が仕入れに来ることも少なくありません。スーパーを基点に、地域全体の毎日の食が豊かになっていくはずです。

みらいマルシェは、まさにそのような基点となる「場 = マルシェ」を全国に生み出していくことで、次の50年の新しい流通をつくっていくことを狙い、立ち上げを行いました。

そして詳細は別の機会に書きたいと思いますが、アプリを開発するにあたっては、産地とスーパーが「生鮮品らしさ」を最大限引き出せるよう、様々な工夫を凝らしました。

「最近あのスーパー、良くなってきたよね」と、そんな声が囁かれるようになれば、それがみらいマルシェの実現したい未来への最初の一歩になると思っています。

太い血管から細い血管まで 〜 これからのみらいマルシェ

2020年6月、時代に合った流通を実現するための改正卸売市場法が農林水産省により施行され、様々な規制が緩和されたことで、生鮮品の流通は形式的にも実質的にも改革の時代へと突入しました。

みらいマルシェは、まだまだ年間20億円の流通規模ですが、未来の流通をつくることに対し、たしかな手応えを感じています。

今後、太い血管を目下100億円規模まで成長させるとともに、次のステップとして、細部の新しい血管をどう整えていくかについての事業検証も開始しました。

消費者や飲食店の多様なニーズをどう掘り起こしていくか、海外の需要とどう向き合うか、ドライバー不足の中、物流の効率化と品質保持の両立をどう図るかなどなど、取り組むべき課題は山積しています。資源保護、フードロス、地域活性化、食の安全といった社会的な課題も、業界が一丸となって取り組むべき優先課題です。

美味しいものがより美味しく、より適正な価格で消費者のもとに届く未来のため。持続可能で、より豊かな食文化が広がる未来のため。みらいマルシェは、今後も新しい流通づくりをますます加速させていきたいと思います。


みらいマルシェは、上のような課題解決に一緒に取り組むメンバーを現在1-2名募集中です。 興味のある方は、ぜひ一度コンタクトいただけると嬉しいです。

採用情報 | みらいマルシェ株式会社

about.miraimarche.com